池山洋子さんのリサイタルに寄せて

2010年から毎年故郷でのリサイタルをすべて聴いています。
年々音楽に対する姿勢の成長を感じ、今回は3人の巨匠の「幻想曲」を聴き、作品を追究するあなたの想いが私達に伝わった完成度の高い演奏と感じました。

それにしてもベートーヴェンの「月光」ソナタ はプログラムの頭で弾く曲としては、奏者、聴者ともに極度の緊張を強いられました。静かな3連符から始まり、しかも誰もが知る名曲です。息を止めたあなたの入りも少し硬さを感じましたが liebe dich(3つの音は献呈した彼女へ、“愛してる”とささやく様に私には聞こえます)と2回聴こえる主題が始まると、あなたは自分の中のベートーヴェンを追っているように見え、軽やかだが不安そうな2楽章に入り、速い3楽章からは私達をすっかり音楽の中に引き込んでくれました。
ベートーヴェンの音楽はドイツの木組みの家を見るようなしっかりした音楽構成と判り易い調性と和音進行の明快さ、そして威厳に満ちた格調の高さです。無駄のない音譜の再現は大変困難ですがそれだけに演奏者の音楽力が試される作曲家の一人です。あなたも覚悟を決めて32曲の全ソナタに挑戦して下さい。大いに期待しています。

ブラームスの作品 116 は昨年のコンサートよりは気負いがなく、安心して聴くことが出来ました。Capriccio と Intermezzo のコントラストは色とりどりの秋の落ち葉のように多彩な和音の多様さと自由に夢想する音楽の厚さと優しさがあなたの美しい pianissimo と快い rit で聴者にブラームス音楽の美しさを認めさせてくれました。
そしてシューマンの繊細だが感情過多なこの音楽はクララへの恋の苦しみだったのか激しい心情の吐露がやや過剰になったのはあなたの強い思い入れがあったのでしょう。とても熱演で情熱家のシューマンが見えました。それぞれのファンタジーがこれほどの違いを見せて謳われたあなたの演奏に拍手を送ります。
激しい波が去るように Adagio に移る rit は快い揺れでロマン派の音楽を十分堪能させてくれたし、曲や楽章の間も緊張感を持ったまま、聴き手に自然なブレスをさせてくれました。
やはり私はブラームスが大好きですので今回カットなしで全部聴かせてくれてありがとう。
今回弾いた NO5 の Intermezzo はスラーの裏拍がもっと短く切れた方が切ない感じが出たのではと感じました。残響の所為でペダルが残ったのかな。この曲は Auftakt と感じない不思議な曲で面白いですね。

そしてアンコール曲のシューベルトの即興曲もすっかり肩の力が抜けて美しい小品としてまとまっていました。シューベルトも又聴いてみたいと思いました。

今回のファンタジーのリサイタルは選曲や演奏時間など、とてもまとまっていて大変楽しめました。次回も楽しみにしています。

(記:伊達 謙)

< 演奏会情報へ戻る

pagetop